理事長挨拶
   

脳血管内治療は、脳卒中および脳血管疾患の標準治療になりました。すべての人が、必用な時に適切に受けられるべき治療です。日本脳神経血管内治療学会(JSNET)は、この脳血管内治療および関連する領域の学術および調査研究を行うことで、その進歩および普及を図り、国民の福祉に寄与することを目的に活動をしています。JSNETは日本で唯一脳血管内治療に関する資格認定を行う学会で、現在会員は5000名を越え、JSNET専門医は2000名を越えています。JSNET専門医は、脳神経外科、神経内科、放射線科、救急のうちどれかの基本診療科の専門医が必用であり、これらの診療科の医師が学会活動に参加しています。


JSNETは任意団体として活動を始めましたが、2006年にNPO法人となり、2023年には一般社団法人に変更しました。年次集会に加え7つの地方会での学術集会も行っています。また急性期脳梗塞のカテーテル治療を行う「血栓回収実施医」、標準的な脳血管内治療を行うことができる「専門医」、より高度な技術と知識でJSNETをリードする「指導医」を認定しています。さらにJSNETでは、新規医療機器の製造販売後調査に資するデータベース事業を行っており、今後はPMSにとどまらず、脳血管内治療の安全な普及のための臨床研究や、医薬品・医療機器の適応拡大に事業を拡大したいと思います。しかしこれらの入力業務やデータベース事業自身が一部の医師の大きな負担になっており改善する必要があります。


JSNETが求める専門医像は、「標準的な脳血管内治療を行うことができる医師」ですので、その認定には筆記試験のみならず実技試験が課せられます。実技試験は、はじめ豚を用いていましたが、後に液体を還流するモデルに変更し、さらに現在は透視装置を廃しビデオカメラを用いています。今後は筆記試験問題の作成過程を見直し、設問の質を向上させます。また受験申請には術者・助手・指導者を記載したファイルの提出が必要ですが、申請者ごとに行われているため過去に提出された症例と齟齬が生じたことがありました。これを厳密にするために、2025年度にはJSNET症例登録システムの運用を開始します。これは全ての治療症例の施設、日時、疾患、術式、術者等10項目程度をWEBから入力するというものです。簡素な項目なので治療直後にスマートフォンから入力することを念頭に開発しました。これはだれが入力してもかまわないのですが、最終的に施設長が承認する必要があります。一度登録すればすべての会員の、実施医、専門医、指導医の申請と更新、年次報告と施設認定に利活用され、それらがとても簡単になります。


JSNETでは他学会にないデータベース事業を行っています。さらに症例登録システムの運用も開始します。前者は製造販売後調査のため、後者は認定業務のためのものですが、現状では手入力が必要で医師に大きく負担がかかります。政府は医療DXを推進しており、マイナ保険証をはじめ電子カルテ情報の共有化を行い始めました。これがさら進めばデータベースも症例登録も自動化が期待されます。また将来的にはこの2つを統合し、新たなデータベースを構築することで、デバイスや治療の効果の判定やデバイスの適応拡大、新たな治療指針の確立が期待できます。未だ明らかではない未破裂脳動脈瘤の治療効果が明らかにできるかもしれません。また脳血管内治療の多くで体内留置デバイスを用います。将来の未知の問題に備えるためには、その記録を長期にわたり保持する必要があります。本来は製造販売業者の責務かもしれませんが、私たちが留置したものです。JSNETがデータを持ち、責任の一端を持つ必要があるのではないでしょうか。


JSNETは症例検討を行う小さな学術集会から始まりましたが、大きく変容しています。先輩達が築いたJSNETの経験や資産を活かし、さらに多くの情報を世界に向けて発信し、患者のために貢献していきましょう。

日本脳神経血管内治療学会 理事長
筑波大学 医学医療系 脳神経外科
松丸祐司