脳動静脈奇形に対する塞栓術について
脳動静脈奇形とは?
私たちの脳には、酸素や栄養を届ける「動脈」と、使い終えた血液を心臓に戻す「静脈」があります。通常、動脈と静脈は毛細血管を介してつながっていますが、「脳動静脈奇形」では、毛細血管を通らず、動脈と静脈が異常な血管のかたまり(ナイダス)を通じて直接つながっています。
この異常なつながりにより、血管に強い圧力がかかり、ナイダスが破裂すると脳出血やくも膜下出血を引き起こして命に関わることがあり、救命できても半身不随や言語障害など著しい障害が残ることがあります。また、破裂しなくてもてんかん発作などの症状が現れる場合もあります。

脳動静脈奇形治療の目的
脳動静脈奇形の治療は、上記のナイダス破裂による脳出血やくも膜下出血を予防することが目的です。

脳動静脈奇形の治療対象(どんな人に治療が必要?)
脳出血やくも膜下出血など、出血で発症した場合は再出血のリスクが高まるため、早期の治療が必要です。
無症状で偶然発見された場合や、てんかんなど非出血性の症状で発症した場合は、今後放置した場合の出血リスクと手術リスクを考慮して慎重に治療適応を判断することが重要です。

脳動静脈奇形の治療方法(特に塞栓術について)
脳動静脈奇形の治療は、以下の方法を組み合わせて行うことが多く、専門的な判断が求められます。
塞栓術(血管内治療)

カテーテルを使って異常な血管を内側から閉塞します
摘出術(開頭手術)

ナイダスを外科的に取り除きます
放射線治療(ガンマナイフなど)

高精度の放射線でナイダスを徐々に縮小・閉塞させます
上記のうち塞栓術(血管内治療)は、細いカテーテル(マイクロカテーテル)をナイダス近傍に誘導し、液体の塞栓物質や塞栓用コイルを用いてナイダスへ流入する異常血管を塞栓する(詰める)治療になります。通常は開頭手術(摘出術)と組み合わせて行われることが多いですが、放射線治療の前後で塞栓術を行ったり、塞栓術のみを行ったりする場合もあります。
脳動静脈奇形塞栓術の利点と欠点(どんなリスクがあるの?)
1. 利点
- 摘出術(開頭手術)のリスク低減:摘出術の前に脳動静脈奇形へ流入する異常血管をカテーテル治療で閉塞することにより、出血が少なく安全に摘出術を行うことができます
- 再出血の予防:出血源となった部位を選択的にカテーテル治療で閉塞して、再出血を予防できる場合があります
2. 欠点(リスク)
下記のような脳カテーテル治療の一般的なリスクがあります。その他にも患者さんごとに起こりうるリスクが異なることがありますので、主治医とよく相談して治療を受けてください。
- 脳梗塞:治療中に正常脳を栄養する血管が詰まって脳梗塞を生じる可能性があります
- 脳出血、くも膜下出血:マイクロカテーテルやガイドワイヤーなどで、頭蓋骨の内部に出血を起こすことがあります
- カテーテル挿入部の合併症:カテーテルを挿入した部位(足の付け根の部分など)に出血や感染を起こす可能性があります
- 放射線被ばく:カテーテル治療は放射線を使って血管を写しながら治療をしますが、被ばく量が多くなると脱毛や皮膚障害などが起こることがあります
- 造影剤の副作用:造影剤によりアレルギーや腎臓の障害を起こす可能性があります
- その他:患者さんの症状や持病、ナイダスの部位、治療法などによって起こりうるリスクが異なりますので、治療を受ける前に主治医によく確認してください。
脳動静脈奇形に対するカテーテル治療は、高度な専門知識と技術、設備が必要になります。疑問点などがあれば、遠慮なく主治医やスタッフにご相談ください。
よくあるご質問(FAQ)
開頭手術や放射線治療を受けるのに、塞栓術も受ける必要があるのですか?
患者さんによって脳動静脈奇形の治療難易度やリスクは様々です。開頭手術や放射線治療が基本の治療になりますが、塞栓術が奏功する場合も多く存在しますので、主治医・担当医とよくご相談ください。
どのような方法で異常血管を塞栓するのですか?
血管を塞栓する方法として、液体塞栓物質、粒状塞栓物質、塞栓用コイルの3種類があります。脳動静脈奇形は血流も速く病変も末梢にあることが多いため、様々な種類の液体塞栓物質が使用されることが多いです。血流が非常に早い場合や動脈瘤を塞栓する場合にコイルを使用します。