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硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)について

硬膜動静脈瘻とは?

脳の表面近くにある「硬膜」という膜で、動脈と静脈が異常につながってしまう血管の病気です。本来、動脈は酸素や栄養を運び、静脈は使い終えた血液を心臓に戻す働きがあります。しかしこの病気では、動脈の血液が静脈に直接流れ込んでしまい、血流の異常をきたし、状況によっては静脈の圧が高くなり頭蓋内出血をきたしてしまう病気です。

原因、発生場所、頻度:静脈洞の血栓症などが関連するという報告もありますが、多くは原因が不明です。発生場所はいろいろな場所に発生しますが、特に多い場所は海綿静脈洞や横-S状静脈洞というところです。硬膜動静脈瘻全体の日本での発生頻度は10万人あたり0.29人や1.044人であったとする報告があります。

症状:病気の発生場所や血流の方向や量によって異なりますが、代表的なものには以下があります。

  • 耳鳴り(心臓の拍動にあわせて音が聞こえる)
  • 眼の充血・腫れ・突出(場合によっては失明することもあります)
  • 物が二重に見える(目の動きをコントロールする神経が圧迫される場合)
  • 頭痛やけいれん
  • 状況によっては、脳出血や意識障害につながることもあります。

脳出血を生じる危険性は、動脈によって静脈が脳の方へ逆流しているかどうかが関係しています。カテーテル検査がもっとも明確に脳の血行動態を評価できます。カテーテル検査を行うかを主治医と良く相談して下さい。

治療の目的

眼の充血や拍動性の耳鳴り、痙攣発作、認知症等を生じている場合はそれらの症状を改善もしくは増悪させないことが目的です。また将来的な頭蓋内出血を予防することも目的となります。出血を生じた場合は早期治療により再出血を予防することが大切です。

未破裂動脈瘤の場合

治療の対象

  1. 適応対象となる症状:眼の充血や、痙攣発作、認知症等を生じている場合は治療の対象となります。また拍動性の耳鳴りも不眠など生活に支障をきたす場合には治療の対象となります。
  2. 治療対象となる血の流れ:静脈が動脈の高い圧に押され脳内に逆流している場合は将来的な出血のリスクもあり治療対象となります。
  3. 頭蓋内出血を発症した場合は、再出血を予防するために治療の対象となります。
破裂脳動脈瘤の場合

治療の方法

① 血管内治療(カテーテル治療)

体を大きく切ることなく、足の付け根などから細い管(カテーテル)を血管内に通し、異常な血流をコイルという金属を留置したり、液体の塞栓物質であるNBCA(n-butyl-2-cyanoacrylate、n-ブチル-2-シアノアクリレート)やOnyxをカテーテルから流して、動脈と静脈の異常なつながり部分を止めます。病変へのアプローチ方法としては静脈側から到達させる経静脈的塞栓術(けいじょうみゃくてきそくせんじゅつ)と動脈側から到達させる経動脈的塞栓術(けいどうみゃくてきそくせんじゅつ)があります。状況によっては両方を併用します。カテーテル治療は低侵襲で安全性が高い治療です。治療による代表的なリスクとしては下記があります。

  • 頭蓋内出血
  • 脳梗塞
  • 皮膚のカテーテルを挿入した部位の内出血や腫れ
  • 一時的な神経症状(視力・眼球運動など)
  • 放射線による皮膚の赤みや脱毛(ごくまれ)

② 放射線治療(定位放射線治療)

異常な血管にピンポイントで放射線をあて、徐々に閉塞させる方法です。

③ 開頭手術(外科的治療)

頭を開けて異常な血管を直接処理する方法。特殊な部位やカテーテル治療が難しい場合に選択されることがあります。

治療の利点・欠点

  利点 欠点
血管内治療(カテーテル治療) 低侵襲 血管内治療では治療リスクの高い症例もある
放射線治療(定位放射線治療) 最も低侵襲 治癒までに時間がかかる
開頭手術(外科的治療) 血管内治療ではリスクの高い症例にも対応可能 最も侵襲が高い

よくあるご質問(FAQ)

手術しないとどうなるの?

血流の方向によっては手術が必要のないこともあります。また、一部は自然に良くなることもありますが、逆に良くない血行動態に変化してしまうこともあります。眼や脳への逆流がある場合は早めの治療が推奨されます。特に、目の充血や飛び出し、視力低下がある場合は放置すると失明の危険があります。また、脳に逆流があると、出血やてんかんなどが起きる可能性もあります。

治療後はどんな経過になりますか?

通常は数日で退院でき、定期的なMRIなどで経過を見ていきます。治療直後に異常血流が止まっても、まれに時間をおいて再発することもあるため、しばらくは定期的な検査が必要です。